虫歯や親知らずの抜歯した時に、どんな器具を使ったのか見たことありますか?
現在では主にペンチのような形をした抜歯鉗子(かんし) と、細くて平たい棒のような器具であるヘーベルというものを使って歯を抜いていきます。
ところが17〜19世紀頃まではコルク抜きに爪のついたような歯鍵(しけん)と呼ばれる器具を使って抜歯をしていました(アイキャッチ画像参照)。
麻酔の無い時代の抜歯に活躍した歯鍵
歯鍵の使い方は、先端を歯茎にあてて、そこから伸びる鉤爪に抜く歯を引っ掛けて回転させる事で抜歯します。
歯茎を支点にするため歯に負担がかからず、一瞬で抜くことができるので、欧米の歯科医師はこの器具をよく用いて抜歯していました。
麻酔が実用化される前の時代は、いかに早く処置を終えるかが患者さんにとって最重要事項だったので、歯鍵はとても有効な器具でした。
ここまで読んでいただいた皆さんの中には
「歯を抜く時は短時間で終わらせて欲しいのに… 何で今は歯鍵を使わないの?」
と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
現代の歯医者が歯鍵を使わなくなった理由、それは麻酔の登場が関係します!
麻酔の発明と処置の方法の変化
19世紀の中頃にエーテルやクロロホルムを使った全身麻酔、コカインを使った局所麻酔が発明されました。
ついに、患者さん達の悲願であった、痛みを感じない手術や処置が可能になったのです。
これにより、乱雑でもいいからとにかく早く治療をするよりも、安全に確実に治療を行う方向へとシフトしていきます。
この時、とにかく早く歯を抜くための器具である歯鍵は時代から取り残されてしまったのです!
歯鍵の欠点とは
歯鍵の欠点は、使用時に歯茎を支点にして抜歯する事です。
歯が抜けるほどの力が一気に歯茎にかかるので歯茎を傷つけたり顎(あご)を骨折する可能性がとても高いのです。
ちなみに鉗子とヘーベルを使った現代の抜歯では、一気に力を加えるのは厳禁です。歯が折れたり歯の周りを傷つけないように、ゆっくりと力をかけて抜きます。
歯鍵の教訓
歯鍵は『とにかく早く抜歯する』ための器具であり、安全性には問題があるので、麻酔が普及した後の『安全に確実に抜歯して欲しい』というニーズと合わなくなってしまったのです。
いつの時代も人々のニーズに合わないものは消えていきます。
自分も、患者さんのニーズを捉え、いつまでも必要とされる歯医者でありたいと心がけています。